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2013年5月30日 (木)

東海道四谷怪談(1959年版)

東海道四谷怪談(1959<br />
 年版)
東海道四谷怪談(1959<br />
 年版)
劇場:京都文化博物館
製作:大蔵貢
監督:中川信夫
音楽:渡辺宙明
原作:鶴屋南北「東海道四谷怪談」
出演:天地茂、若杉嘉津子、北沢典子、江見俊太郎、中村竜三郎、池内淳子、大友純、林寛、浅野進治郎、芝田新、花岡菊子、杉寛、高村洋三、山田長正、泉田洋志、広瀬康治、築地博、千曲みどり 他

※写真上…1959年初公開時のポスター

 写真下…1980年リバイバル公開時のチラシ


 《最も有名な怪談映画の中でも最高傑作のもの》


 「四谷怪談」といえば、元禄時代に起きたとされる事件を基に創作された怪談で、鶴屋南北の歌舞伎や三遊亭圓朝の落語などで知られるが、映画でも戦前から今日に至るまで30本以上製作されており、その中でも本作は初のカラー作品で、数ある“四谷怪談もの”の中でも一番の傑作として知られている。今回は映画用35mmフィルムではなく、16mmフィルムに縮刷したものを上映。このため本編はトリミングされ違和感がなかったものの、タイトル画面は左右、スタッフ&キャストロールは上下が欠けていた。


 備前岡山の屋敷町で浪人民谷伊右衛門(天地茂)は、お岩(若杉嘉津子)との仲を引き裂かれたのを恨みに思い、その父四谷左門(浅野進治郎)と、彼の友人佐藤彦兵衛(芝田新)を手にかけた。これを目撃した仲間直助(江見俊太郎)は、弱味につけこんで伊右衛門を脅迫するようになった。伊右衛門と直助は左門・彦兵衛殺しを他人の仕業とみせかけ、お岩と妹のお袖(北沢典子)、お袖の許婚で彦兵衛の息子与茂七(中村竜三郎)の3人をつれて仇討ちと称し、江戸に向けて発った。道すがら、お袖に想いを寄せる直助は、伊右衛門を唆して与茂七を白糸の滝に突き落とさせた。江戸に出た伊右衛門は、ある日無頼の徒から伊藤喜兵衛(林寛)親娘を救った。喜兵衛の娘お梅(池内淳子)は、それが縁で伊右衛門に心をよせるようになった。その誘惑と、喜兵衛の家に入り込めるという金と立身出世への夢が、伊右衛門を動かした。直助に唆されて、彼はお岩殺害を決意した。按摩の宅悦(大友純)を使ってお岩に言い寄らせ、不義の現場で斬り捨てようという寸法である。だが伊右衛門の
決意を疑った直助は、伊右衛門を通じて毒薬をお岩に飲ませるよう計った。無残に顔の腫れあがったお岩は、驚く宅悦の口から事の真相を聞くと、自殺した。宅悦を斬った伊右衛門は、その屍体とお岩の屍体を戸板に釘づけにし、隠亡堀に投げ入れた。伊右衛はお梅と祝言をあげた。だがお岩の亡霊に取り憑かれた彼の目には、お梅やその一族の者を次々と斬殺した。一方、直助はお袖を女房にしたものの、その顔がお岩に見えて近づけなかった。直助が隠亡堀から拾ってきた櫛と着物が姉お岩のものに似ているのを見て、驚くお袖の前に、お岩の亡霊が現れ、彼女を生きていた与茂七に引き合わせた。その時財宝分配の争いから、伊右衛門は直助を殺した。一切を知ったお袖は、与茂七とともに伊右衛門を討ち、姉の恨みを晴らす…。

 この映画、本来伊右衛門役には新東宝の看板スター、嵐貫寿郎が予定されていた。ところがほぼ同時期に大映が長谷川一夫主演による「四谷怪談」の撮影に入った事が判り、公開日も同日という競作状態となったため、嵐を傷つけることを恐れた製作側が配役を見直し嵐は降板、直助役だった天地茂を伊右衛門役に変更した。


 新東宝は東宝争議というゴタゴタの中で創立された東宝の子会社で、弱体化した東宝の配給を補うはずだったが、間もなく東宝側が配給を復活させたため、袂を分かつ形となり、独自に配給を開始したものの、元々の配給網の弱さから収益も悪化、製作能力も落ち作品も次第にB級エログロ路線となる。結果として創立から14年で倒産し、現在は商号変更してTVドラマなどを手がける「国際放映」となっているのだが、本作はすでに作品の傾向がエログロ路線に傾いていた時のもので、予算等の都合からか上映時間も76分と短く、内容も細かいところで原作と違う点が多い。


 その反面、有名な「戸板返し」やお岩の絶命シーン等は忠実に映像化されており、この辺りは会社のB級エログロ路線に反発して、本格的な娯楽作を撮ろうとした当時のホラー映画の名匠、中川監督の演出が冴えわたっていて見応えがある。


 そして、何より本作が他の「四谷怪談」と違うところは、お岩さんに焦点を当てるのではなく、悪役・伊右衛門にスポットを当てたことだ。天地演じる伊右衛門は極悪非道な事をやっておきながら、最後には改心したのかお岩さんに許しを請う。どんなに悪い人間にも、必ず心のどこかに弱味があると考えた監督は、伊右衛門のキャラクターに自身の考えを投影し、天地はその“悪に撤しきれない、弱い人間の心”を見事に体現しているのである。この人はこの役をきっかけにスター街道を駆け上がっていくことになり、映画会社を去った後はテレビの「江戸川乱歩の美女シリーズ」における、明智探偵役が当たり役となるが、残念ながら50代半ばでクモ膜下出血で倒れ、この世を去った。現在この映画はDVDで観ることができる(セル版は現在版権が変わりTSUTAYA onlineでのみオンデマンド商品扱いで販売中 レンタル版あり)。“四谷怪談もの”の最高傑作、ぜひ暑い夏に観て楽しんでほしい。


私の評価…☆☆☆☆☆

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